出来れば部屋の中に入れて毎日でも眺めていた。
暇があれば磨いていたいとおもう。
もう20年も前の事。
家の新築をしたい。好きなバイクを部屋から眺められるようにしたいと依頼がきた。
当時、バイク好きなオイラに『バイク好きの設計は、バイク好きなやつならわかるな』とオイラに白羽の矢がたった。
オイラも、楽しい仕事がきたと喜んでいた。
どんな人だろう、どんなバイクに乗っているのか。
週末、その方と横浜のホテルラウンジでお茶をしながら打ち合わせとなった。
待ち合わせの時間より早くついたオイラは、ホテルのラウンジから外を眺め通り過ぎる人を眺めていた。数分でその方は来た。
ビンテージなバイクに乗りやってきた。
『すんげ〜バイクだな・・・あのひとかな』その人が入って来た。
つかつかとオイラに前にきた人。そこにたっていた人を見て正直驚いた。
真っ黒な色あせた革ジャンに身を包んだ初老の男性がオイラの前にたっていた。
『ども!kazuaさんですか?』
『は、はい』歳のわりに元気がいい。
『◯◯です』
『あっ、初めまして・・・宜しくお願いします』
どう見てもオイラの親父と変わらない年齢。
しかし、バックからタバコケース、ライター全てがお洒落。
当時20代のオイラでも欲しいと思う様な物身につけていた。
ブルーターコイズの大きな石が埋め込まれたタバコケースからサッとタバコを出し、
『ああっ、失礼、タバコを吸っても宜しいですか?』
『ど、どぞw』いや〜かっこいい。
簡単な世間話をして本題に入った。
奥様を亡くされた悲しみから3年間、廃人の様な生活をしていたそうです。
この方の年代だと、普通車の免許書をとれば大型限定解除のバイクの免許書もついて来た時代。いつか大きなバイクに乗りたいと思っていた。
『私もね、守るべき者もないし、いつ死んでも良いって思ってね。うちの近所にあったバイク屋を覗いたら真っ黒なBMWと御対面して、一目惚れ。それからバイクに乗るようになった』。
Tさんの身の上話も入れ込みながらイメージする新築の家を聞き出す。
Tさんのイメージとオイラのイメージはかなり違っていた。
Tさんのイメージは、無垢の木をふんだんに使い、新建材はいっさい使わないというもの。
話を聞いていると和のイメージが大きい。
『和にバイク・・・イメージとしてはそれで良いですか?』
『んっ、その通りです』
設計が進み家も建築が始まり現場での打ち合わせでTさんと会う事も多くなった。
Tさんは、いつもの古めかしいBMWに乗ってやってくる。
バイクの名前は忘れたが。
当時のオイラには、ビンテージバイクの価値観がわからなかった。
だから、名前も覚えようとは思わなかった。
『こいつをこの辺りに置いてね、私はここにソファーを置いて座って見ていたいんだ』
いつもそう言いながら家が出来上がるのを眺めていた。
家も出来上がり、引っ越しが終わりバイクを家に入れるとの事なので、様子見に行った。バイクの為に敷いたレンガの上に真っ黒に輝いたBMWが配置された。
柱や梁はBMWの雰囲気に合うように黒く色付けした。
照明は、白熱灯をメインにしてバイクより少し離れた場所には、つや無しの黒い薪ストーブ。設備屋が薪ストーブの点火式を行いオレンジ色の綺麗な炎に包まれた薪がぱちぱちと爆ぜていた。
『そうそう、忘れてた』Tさんは、段ボールの上に置かれた綺麗な桃色の風呂敷から写真立てをそっと出し、BMWのバイクのシートに乗せた。
オイラは、一目で奥さんの写真とわかった。
『てへっ』と声をだし照れるTさん。
誰の目にも熱い物が込上げて来た。
缶コーヒーで乾杯し、その日は帰る事にした。
数日後、バイクを外に出す時にスロープの角のレンガを壊してしまったとの連絡が入り現場に向かった。現場につくとスロープの横に倒れたBMW。
『大丈夫ですか?』と家の奥に居るだろうTさんに声をかけ
オイラは、渾身の力を込めてBMWを起こした。ハンドルやステップについた
泥をはらい、もれたガソリンの上に土をかぶせた。
『ありがとう、すまないね』右足を引きずって出て来たTさん。
サンダル履きでバイクをスロープからおろそうとして、サンダルから足が脱げ転倒しバイクの下敷きになってしまったらし。早く現場に来て良かった。
『怪我は?』
『大丈夫、ありがとう』そう言いながら右足を擦っていた。
スロープのレンガを直し、Tさんの入れてくれたお茶を飲みながら話をした。
『今日は妻の墓参りでもと思ってね、バイクで行こうと思ったらこのざまだw』
『あまり無理しないでくださいよ』そんな話をしていた。
一度オイラは会社に戻り、社長に促されるようにもう一度Tさんの自宅を訪ねた。
庭の門を開けようとするとTさん宅から笑い声が聞こえた。
息子さん夫婦とお孫さんがきているようだった。
リビングを覗くと右足に包帯をまいたTさんが、ソファーに座りバイクを眺めながらゆったりとしていた。安心し、オイラはそのまま挨拶もしないで家に帰宅した。
それから、Tさんの要望でヘルメットやウエアーを飾れる棚をつけたり、付き合いは続いた。全ての生活がバイクを通じて楽しく過ごしているのがわかった。奥様の死後、バイクに助けれたと言っていた。オイラもわかる様な気がする。とても素敵な人だった。
3年前、Tさんが他界したと息子さんから連絡が入った。
葬儀の席で息子さんにこんな事を言われた。
『kazuさんには、感謝しています。親父がいつも言ってました。バイクが好きな人がデザインした家は、全てが満足出来る物だったと言ってました』と。
泣けました・・・嬉しかったです。
バイク好きにしかわからない、何か繋がる物があったのかなと思います。
バイクを眺めながらニコニコと話すTさんの顔が今でも忘れられません。
オイラもそんなバイク人生を送りたい。
バイクに乗れて幸せだったと・・・。
4 件のコメント:
読んでいるだけでこちらの目頭にも熱いものが込み上げました。
僕自身いずれ、子供にも自慢できる城を持ちたいものです。その時はkazuさんに真っ先にご相談ですね!
みなさんに色々な話を聞きたいので是非集まりましょう!
こないだ職場で、diavelの納車待ちの方と知り合いました驚。
順調にdiavelの輪が広がっております笑。
tsuchimac さん
建築の事ならお任せくださいw。
それまでにライダーズハウスを経営してなければ・・・w。
職場でDUCATI仲間が居るなんて羨ましいですね!。
うちの職場は、HONDA、ハーレー乗り2名だけw。
オイラの回りには旧車乗りが多いですね。
昔のKawasakiのZ1をレストアして乗ってますね。
是非、DIAVELの和を広げましょう!!。
はじめまして。
最後まで読ませていただき
Tさんの息子さんの言葉に感動しました。。。
自分も老いてもライダーで行こうと思いました。
Osamuさん
コメントありがとうございます。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
T氏との写真は、今でも書斎に飾ってあります。
オイラもいつまでもバイクに乗って若々しいライダーでいたいです。
お互いにがんばりましょう!。
コメントを投稿