毎年、夏になると思いだす。
お袋の田舎。
電車に揺られて、バスに揺られて何時間もかけてやっと到着。
バスから降りるとスイカの香りがする。
スイカ畑なんかない。
あるのは目の前の綺麗な川だけ。
巾にして5mぐらい。
『スイカの匂いがする』
『あぁ、あれは鮎の匂いだよ』
『鮎?』
川の方に歩くお袋の後について行く。
川を覗き込むお袋。
『ほら、あそこに魚がいるだろ、あれが鮎って魚』
川に魚の群れが沢山見える。
ユラユラと、サッと横に動くものもいる。
『鮎の匂いなんだ』
川のほとりに流れる涼しい風と一緒にスイカの様な香りがする。
川が綺麗な証拠らしい。
母に手を引かれて道幅4m程の砂利道を山に向けて歩く。
まわりは田んぼと山。
家なんか無い。
『この先にお母さんのお友達の家があるから、お土産を渡すから』
『おばぁの家にはまだ行かないの?』
『後で行くよ』
田んぼのあぜ道をしばらく歩くと古い大きな家が建っていた。
家の中から手ぬぐいを頭からかぶったおばさんが出て来た。
『あんらぁ〜みっちゃん!よう来たな〜』
『さっちゃん、久しぶりやな〜』お袋は、標準語を普段喋るが、
田舎に帰ると田舎の言葉になった。それが面白くてオイラは良くまねた。
話は30分はくだらない。その間、オイラは庭先をウロウロ。
『おかあさん、早くおばぁのところに行こうよ〜!』
『はいはい、さっちゃん、また来るさかい後でね』
楽しそうなお袋の顔、こんな顔するんだと思った事を覚えている。
しばらく坂道を上ると藁葺き屋根の上にトタンの板をかぶせた
古民家が見えてくる。それが祖母の家。
黒く変色した千本格子の引き違いの扉を開けると土間があり
右に五右衛門風呂の風呂場の入口、その奥に昔ながらのかまどが3つ並んでいた。
左に大広間がある。天井には大きな黒い松丸太がはしっている。
『あんりゃ〜ようきたなぁ〜はよ上がらんしゃい』
隣のトトロに出てくる、あのまんまのおばぁが奥の部屋から出てくる。
『暑かったろ〜に・・・キュウリ食べるか?』
台所の奥からキンキンに冷えたキュウリが出て来た。
毎年田舎に行くと食べさせられた。
塩か味噌を付けて食べるのだが、これがまた美味かった。
川で遊び、夜になると家の明かりに飛んでくる大きなカブトやクワガタを
飯も食わずにとって、大きな食用蛙を踏んづけたり、蛇に驚かされたり、
オイラの楽しい夏が始まる。
懐かしいあの頃の夏。
今でも、夏の始まりにはあの時の夏を思い出す。
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